関係者錯誤と重視聴錯誤|エンタメ業界の方に向けて

 

以前から一度、ある概念について、言語化しておかなければならないなぁ
と思っていた事が2つあったのですが、
本日ふと頭の中で整理がついたのでコラムとして記しておこうと思います。

それは、「関係者錯誤」と「重視聴錯誤(ちょうしちょうさくご)」です。

このような概念が、エンタメ業界内で、明確に一般名称として言語化されていない為に、
さまざまな所で弊害とも呼べる場面に遭遇することがありました。

一般的に広く認知されている錯誤としては、吊り橋効果があげられますが、
吊り橋を渡っているときのドキドキが、一緒に吊り橋を渡っている人への好意であると、本人が誤認してしまう現象のことを指します。
ホラー映画を鑑賞して、感情が高ぶり、一緒に視聴した人への好意・もしくは嫌悪として転換される現象も、典型的な錯誤と言えます。
これらの現象は、社会心理学では「帰属錯誤(きぞくさくご)」と呼ばれています。

 

まずは「関係者錯誤」から説明すると、
字面からも何となく雰囲気が伝わるかと思いますが、
エンタメ系コンテンツを鑑賞する際に、
趣味や嗜好が似た属性を持つクラスターからの作品の評価が、
低くなってしまう現象のことを指します。
例えば、法曹界をテーマにしたマンガがあるとして、
その道の専門家(この場合は弁護士)からすると作品の粗が目立ち、
純粋の作品を楽しむことができなくなる現象です。
マンガ的な演出やウソが、現実の世界との乖離があると評価して、
つまらない作品であると判断してしまうようなケースです。

また、友達や知人から作品評価も同様の傾向がみられます。
知人や友人は、本人の人となりを知っているがゆえに、
客観的な視点でコンテンツを消費できなくなってしまい、
誤った評価をしてしまう傾向が強くなります。

マンガ制作においては、作者が前面に出る事は、基本的には避けた方が無難です。作者の顔や言動が頭にチラつくと、アイツが作っているのか…という余計な情報が前提となり、作品を純粋に楽しめなくなってしまいます。
なかなか難しいですが、その作品世界が本当に実在し、作者が存在しない…と思わせるくらいが理想です。

 

次に「重視聴錯誤」についてですが、
これは非常に単純なお話ですが、
2回目、3回目の視聴の方が、1回目に観たときよりも、
つまらなく感じてしまう現象のことを指します。

美味しかったお店に、再訪したときに、
以前ほど美味しさを感じられてないといったケースも、同根の現象と言えます。

これは当たり前のことなので、わざわざ言われなくても分かっている!と
思われるかも知れませんが、この現象についての固有の名詞が存在しない為に、
このような錯誤が今も大手を振って、エンタメ業界内を跋扈しています。

これは以前、僕の身に実際に起きた話なのですが、
「重視聴錯誤」が原因となって、制作した漫画が危うくマンガ作品が
危うく没になりそうな事があったがありました。

某エンタメサイトのディレクターの方が、最初は物凄く評価してくれて、
担当になったものの、制作過程を通して、そのマンガを複数回読んでいるうちに、
だんだんとつまらない作品であると錯誤してしまったという出来事です。

こちらとしては、ディレクターの方が「重視聴錯誤」に陥っていると手に取るように分かっていたのですが、
「読者は一度しか記事を読まない人がほどんどなのだから、初見の印象が一番大事で、それを覚えておくのが、ディレクターとしての基本的なテクニックですよ」と教えたかったのですが、もちろんそんなこと言う関係性でもないので、約束は反故にされてしまいました。

その後、作品自体に凄く力があった事と、いろいろな幸運が重なり、結果として大きく作品が広がって
100万人を超える方に観て頂けるマンガ作品となりましたが、
あのまま行けば、世に出ていなかった可能性も高い状況でした。

 

たぶん「関係者錯誤」と「重視聴錯誤(ちょうしちょうさくご)」は、
源氏物語等々の創作コンテンツが生まれてから今日に至るまで、
1000年以上脈々と続いてきた心理現象だと思われます。

 

せっかくの良い作品(コンテンツ)が世の中に埋もれてしまうのは
大変勿体ないことですし、日本のコンテンツ産業を世界に広げていく為にも、
この心理的傾向を、日本の国内だけでも固有の名詞として定義し、
せめて業界の中だけでも広げていくことができればいいよなぁと思っております。

意味的には「重鑑賞錯誤」の方がシックリきますが、語感的に「重視聴錯誤」の方が良いかなと…。

 

ということで、マンガ家志望者の方々は、編集者にダメだしされたら
こう言ってやりましょう!

漫画家志望者
「それって重視聴錯誤じゃないですか?
初見を前提に作品を評価していますか?」

編集者
「うむむぅぅ・・・、すみません。
私の重視聴錯誤かも知れません…。
本誌に掲載して読者反応を見てみましょう」

たぶんこんな感じになるハズです……

オーツボ 拝

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